SPECTRO XEPOS 定量分析ソフトウェア


定量分析ソフトウェア 「TurboQuant(ターボクォント)」
XRF分析では、標準物質を用いずにおおよその濃度を同定することが可能な、スクリーニングや簡易定量分析に適したファンダメンタルパラメータ(FP)法と呼ばれる定量分析法を使用することができます。
FP法とは?
FP法は、物質の組成が分かれば各元素の蛍光X線の発生量(強度)を理論的に計算できることを利用し、仮定した組成から各元素の蛍光X線強度を理論計算により求め、実測強度と比較し、仮定する濃度を変化させながら、理論と実測の差が小さくなるまで逐次計算を行い、最終的な濃度を決定する方法です。
FP法が利用できない!?

FP法では理論と実測を比較しますが、一般的にXRFで測定ができないH、C、Oなど、すなわちXRFでその実測強度を得ることができない元素については、理論との比較を行うことができません。
さらにこれら元素が主成分(マトリックス)レベルで含有しているサンプルについては、FP法をそのまま利用し定量することはできません。
そのようなサンプルについては、FP法の逐次計算に用いる仮定の組成として、
例)有機物ならCH2、水溶液ならH2O
といった情報を「非測定成分(=100%からNa~U※の合計を引いた残りの成分)」としてソフトウェアに
あらかじめ設定・入力することで対応することができます。
※:Na~UはEDXRFで一般的に測定可能な元素の範囲


サンプルを測定すると、各元素からの蛍光X線の信号以外に散乱線というものが検出されますが、散乱線の種類の一つであるコンプトン散乱線の強度は、サンプルの平均原子番号/質量吸収係数に依存します。この関係を
利用し非測定成分の情報を推定します。

図1:ワックス、ガラス、酸化バナジウムを測定した際に得られるコンプトン散乱線の比較例

図2:MAC検量線の例
図1はマトリックスの違い(=平均原子番号/質量吸収係数の違い)によるコンプトン散乱線強度の変化を示した例です。図2は様々なマトリックスの標準物質を測定し、得られたコンプトン散乱線強度とそれら物質の質量吸収係数をプロットしたグラフです。高い相関があることが分かります。SPECTROではこれを質量吸収係数の英訳であるMass Absorption Coefficientの頭文字をとって「MAC検量線」と呼んでいます。
不明なサンプルの定量分析が可能に
TurboQuantには工場作成済みのMAC検量線が保存されており、これをFP法に組み合わせることで、非測定成分が不明なサンプルに対しても正確さを損なわずに定量分析を行うことができるよう工夫されています。TurboQuantでは、未知のサンプルを分析する際、定量計算の初期に、得られたコンプトン散乱線と保存されているMAC検量線からサンプルの平均原子番号を同定します。この情報を基に、FP法による定量計算に必要な非測定成分全体の仮定の濃度を決定し、つづけて逐次計算を実行する流れで定量分析を行います。
図3は、さまざまなマトリックスの標準物質について、それらに含有するカドミウム量を、装置がSPECTRO XEPOS、およびTurboQuantメソッドを使用し分析した結果を示しており、標準値との良好な一致が見られます。酸化物や有機系化合物を含むさまざまなマトリックスに対し、一つのメソッドかつ非測定成分情報の入力・設定なしで対応できていることが分かります。

図3:さまざまなマトリックスサンプル中のCdをTurboQuantで分析した結果
下記表1は、堆積物の認証標準物質を、装置がSPECTRO XEPOS、および土壌系マトリックス向けにマッチングさせたTurboQuantメソッド(商品名:Geochemistry Trace)を使用し測定した結果です。スクリーニングの域を超えた定量分析性能があることを示しています。
※:Na~UはEDXRFで一般的に測定可能な元素の範囲
元素または 酸化物 |
単位 | 分析値 ± 誤差 | 認証/参考値 ± 誤差 | 元素または 酸化物 |
単位 | 分析値 ± 誤差 | 認証/参考値 ± 誤差 | |
Na₂O | % | 2.57 ± 0.05 | 2.58 ± 0.03 | Sr | mg/kg | 153 ± 1 | 144 ± 3 | |
MgO | % | 0.64 ± 0.02 | (0.49 ± 0.02) | Y | mg/kg | 34.6 ± 0.4 | 32.7 ± 0.7 | |
Al₂O₃ | % | 11.31 ± 0.02 | 12.47 ± 0.06 | Zr | mg/kg | 275 ± 1 | 259 ± 7 | |
SiO₂ | % | 75.36 ± 0.04 | 73.45 ± 0.17 | Nb | mg/kg | 28 ± 0.4 | 26.2 ± 0.7 | |
K₂O | % | 5.18 ± 0.01 | 5.00 ± 0.03 | Mo | mg/kg | 17 ± 0.6 | 13.3 ± 0.4 | |
CaO | % | 0.95 ± 0.01 | 0.84 ± 0.01 | Ag | mg/kg | 15.0 ± 0.4 | (15 ± 2) | |
Fe₂O₃ | % | 2.64 ± 0.01 | 2.63 ± 0.02 | Cd | mg/kg | 5.5 ± 0.4 | 5.1 ± 0.2 | |
Ti | mg/kg | 1724 ± 4 | 1798 ± 18 | In | mg/kg | 2.6 ± 0.2 | (2.1 ± 0.2) | |
V | mg/kg | 29.6 ± 1.4 | 25.2 ± 0.7 | Sn | mg/kg | 3.3 ± 0.4 | (2.4 ± 0.2) | |
Cr | mg/kg | 51.4 ± 0.6 | 49.6 ± 1.7 | Sb | mg/kg | 97.7 ± 0.8 | (107 ± 5) | |
Mn | mg/kg | 1162 ± 2 | 1038 ± 15 | Cs | mg/kg | < 1.7 | 1.82 ± 0.1 | |
Co | mg/kg | 13 ± 3 | 12.4 ± 0.4 | Ba | mg/kg | 959 ± 4 | 990 ± 12 | |
Ni | mg/kg | 49.1 ± 1.4 | 48.8 ± 1 | La | mg/kg | 37 ± 2 | 46.6 ± 1 | |
Cu | mg/kg | 239 ± 2 | 236 ± 4 | Ce | mg/kg | 86 ± 4 | 98.8 ± 1.7 | |
Zn | mg/kg | 796 ± 3 | 760 ± 13 | Hg | mg/kg | < 1 | 1.44 ± 0.1 | |
Ga | mg/kg | 18.5 ± 0.8 | 17.6 ± 0.4 | Tl | mg/kg | 3.3 ± 1.0 | (2.8 ± 0.2) | |
Ge | mg/kg | 1.1 ± 0.4 | (1.5 ± 0.2) | Pb | mg/kg | 935 ± 4 | 808 ± 14 | |
As | mg/kg | 91 ± 2 | (76 ± 5) | Bi | mg/kg | 4.3 ± 0.8 | 1.05 ± 0.1 | |
Se | mg/kg | 2.6 ± 0.2 | (2.7 ± 0.5) | Th | mg/kg | 17.4 ± 0.8 | 14.2 ± 0.4 | |
Rb | mg/kg | 156 ± 1 | 149 ± 2 | U | mg/kg | 2.7 ± 0.8 | 2.53 ± 0.1 |
表1:金属リッチ堆積物の認証標準物質SdAR-M2を加圧成形法で試料調製し、土壌系サンプル向けにチューニングされたTurboQuant—SPECTRO商品名「Geochemistry Trace」で分析した結果。分析値の右に記載の誤差は理論統計変動(信頼区間95%)。()で記載された値は認証値ではなく参考値。