ガスクロマトグラフィー(GC)の基礎
Ⅰ章-2 ガスクロマトグラフィーについて
Ⅰ章-2-1 ガスクロマトグラフィーの特長
ガスクロマトグラフで分析可能な成分は、気体または熱を加えると気化する成分に限られます。
しかし、以下のような特長を持っているため、幅広い分野で利用されています。
1. ガスクロマトグラフは高理論段数を得やすいため、その分離性能の高さからガソリンのような多成分混合物の分析に最適です。
2. カラムの種類が多様であるため、分析目的に合わせて最適な条件を選択できます。
3. 高感度でありながら汎用性があり、選択性のある検出器を使用することも可能です。
特に選択性の高い検出器では、夾雑成分の影響を受けにくい利点があり、微量分析も可能です。
ガスクロマトグラフでの分析 ~定性分析~
分析する未知試料に含まれている成分を特定するのが定性分析です。未知試料と標準試料を同じ条件で分析し、得られたクロマトグラムの情報からピークを特定します。
対象成分と標準試料のピーク溶出時間が一致すれば、成分の特定が完了します。
ガスクロマトグラフィでの分析 ~定量分析~
分析する未知試料に対象成分がどのくらいの濃度で含まれているかを調べるのが定量分析です。濃度の違う標準試料を分析して、そのピークの面積値や高さから検量線を作成します。
未知試料を同条件で分析し、対象成分のピークの面積値や高さを検量線に当てはめて、濃度を算出します。
Ⅰ章-2-2 ガスクロマトグラフィーの用途
ガスクロマトグラフィーで分析対象となる化合物
下記の特徴を持つ化合物であれば、ガスクロマトグラフィーで分析可能です。
・加熱によって気体になる化合物(通常400℃位まで、最高で沸点700℃程度まで)
・気化した際に、その温度で熱分解したり、重合、反応などを起こさない化合物
主な分析対象
<無機ガス> 酸素、窒素、水素、二酸化炭素、アルゴンなど
<炭化水素> メタン、エタン、プロパン、アセチレン、天然ガスなど
<化学工業> 石油、化粧品、化成品、可塑剤、バイオディーゼルなど
< 環 境 > VOC、カビ臭、アルデヒド、農薬、悪臭、ダイオキシンなど
< 食 品 > 残留農薬、フレーバー、食品添加物、異臭など
< 医 薬 > 低分子医薬品、原薬、医薬中間体、医薬品残留溶媒など
測定できない化合物、もしくは難しい化合物
ガスクロマトグラフィーに不向きな化合物もあります。
その場合は前処理を検討したり、違う方法での分析を検討します。
- 測定できない化合物
- 気化しない化合物(無機⾦属、無機塩類、イオン類など)
- 化学的に不安定で分解しやすい化合物や反応性の高い化合物
- 測定が難しい化合物
- 強酸、強アルカリ(各部の腐食、劣化)
- 高極性化合物(アミノ酸、有機酸、糖など。誘導体化を検討する)
- 吸着性の高い化合物
(カルボキシル基、水酸基、アミノ基などを持つ化合物。誘導体化を検討する)
※誘導体化に関しては、技術資料の「誘導体化試薬」をご参照ください。
Ⅰ章-2-3 ガスクロマトグラフの装置構成
キャリヤーガス制御部 :カラムに流すキャリヤーガスの流量を制御します。
注入口 :試料を加熱,気化してカラムに送ります。
カラム :分析する試料を分離します。
カラムオーブン :高い再現性を得るために、カラム温度を正確に制御します。
検出器 :試料を検出し,その濃度を電気信号として出力します。
データ処理システム :検出器の電気信号を収集し、解析します。
キャリヤーガス
キャリヤーガスには窒素、アルゴン、水素、ヘリウムなどを使用します。
窒素 :安価で安全だが、最適線速度が遅いため分析時間がかかり、最適流速域も狭い。
水素 :安価で最適流速域が広く、性能としては理想的だが、安全性の面で問題が残る。
ヘリウム:高価だが最適流速域が広く、安定性が高い
その他、TCD検出器は分析対象物質によりキャリヤーガスの選定が必要です。
キャリヤーガス制御部
キャリヤーガスに用いるガスボンベは高圧充填されているため、調整器により、排出されるガス圧力を制御する必要があります。
制御されたガスをガスクロマトグラフに導入し、カラムに適切なガス量をカラムに送り出すのがキャリヤーガス制御部になります。キャリヤーガスは分離や保持時間の再現性に重要なファクターであるため、精度良く制御する必要があります。
キャリヤーガスの制御方式には圧力制御方式、流量制御方式があり、多くの場合、分析中はどちらかの値を一定に制御します。
試料導入部(注入口)
注入口で導入された試料は、キャリヤーガスによってカラムへ送り込まれます。一般的には高温に加熱された注入口にシリンジを用いてサンプルを注入します。気体試料はそのまま、液体試料は気化されてカラムへ移動します。代表的な注入口にはダイレクト注入口、スプリット・スプリットレス注入口があります。
充填カラム用ダイレクト注入口
試料の全量を導入する注入口です。
キャピラリーカラム用スプリット・スプリットレス注入口
試料の一部をカラムに導入するスプリット注入法、ほぼ全量を導入するスプリットレス注入法が選択できます。
その他の注入口
その他、オンカラム用注入口や、PTV(昇温気化型)注入口などがあります。
検出器
検出器の種類と選択性
検出器名称 | 略称 | 選択性 |
---|---|---|
水素炎イオン化検出器 Flame Ionization Detector | FID | 有機化合物 |
熱伝導度検出器 Thermal Conductivity Detector | TCD | 無し |
電子捕獲型検出器 Electron Capture Detector | ECD | ハロゲン、S、O原子 |
光イオン化検出器 Photo lonization Detector | PID | 分子のイオン電圧 |
フレーム光度型検出器 Flame Photometric Detector | FPD | S,P原子 |
質量分析計 Mass Spectrometer | MS | 分子の質量ベクトル |
以上のように、非常にたくさんの種類があり、この中で特に多く使用されるものについて、いくつか簡単に説明します。
水素炎イオン化検出器(FID)
FIDは、広いダイナミックレンジをもつ汎用検出器です。可燃性の有機化合物を水素炎中で燃焼させたときに生成されるイオンをコレクターで捕集し、このときに発生した電流を検出します。FIDは、ほぼ炭素数に比例して感度が上昇しますが、ヘテロ原子や不飽和結合を含むような試料は、燃焼しにくくなるためにモル相対感度の低下が起きることに注意しなければなりません。
熱伝導度検出器(TCD)
TCDは、図のようなブリッジ回路を用いてフィラメントに流れる電流値の変化を検出することにより、試料の検出を行います。TCDは、セル容積が大きいため、キャピラリーカラムには向きませんが、セル容積を小さくしたキャピラリーカラム用のマイクロTCDも実用化されています。
TCDは、分析対象成分と、キャリヤーガスとの熱伝導度の差を利用した検出器で、熱伝導度の差が大きいほど、感度は高くなります。
分析対象成分によりキャリヤーガスを検討する必要があります。下記に、主なガスの熱伝導度を表記します。
Ⅰ章-2-4 GC分析での検討事項
対象成分 | 成分名、沸点、官能基、物性 |
分析の目的 | 定性、定量、パターン分析 |
濃度 | 濃度の上限~下限 |
マトリックス | 希釈溶媒、夾雑物 |
注入方法 | スプリット、スプリットレス、前処理装置 |
注入量 | 液体の場合、気体の場合 |
検出器 | FID、TCD、MS、ECD、FPD |
試料の前処理やカラム、注入方法、検出器を決定する