技術情報

ガスクロマトグラフィー(GC)の基礎

Ⅲ章-3 スプリットレス注入法

スプリットレス注入法は、主として、微量分析を行うための注入方法です。試料注入時はスプリットベントが閉じた状態で、試料がカラムにほぼ全量導入された後、ライナー内の残留物を追い出すためにスプリットベントを開きます。しかし、カラムへの導入量が多いため、試料はカラム内で広がってしまいます。これを防ぐために、試料を効率よくカラムに導入し、濃縮効果を用いて広がりを防ぐ必要があります。

<ライナーの内径>

ライナーに注入された試料を効率良くカラムに導入するためには、内径の細いライナーの使用が有効です。ライナー内の線速度が上がり、カラムにすばやく導入されます。左図は内径の細いライナーの方が試料を短い時間でカラムに送り込めることを示しています。ただし、内容積の小さいライナーに多量の試料を注入すると、気化して膨張した試料がオーバーフローする場合があるので注意が必要です。

<キャリアガスの流量>

キャリアガス流速はそのままライナー内の流速になります。カラム流量を上げるのも方法の一つです。

<カラムの温度>

注入口の温度よりカラムの温度が高い場合、溶媒がカラム入り口で膨張(極端な場合は気化)してカラムへの試料導入を妨害する場合があります。

Ⅲ章-3-1 カラム入口での試料濃縮

カラム内に効率良く試料を導入したら、次に重要となるのは、カラム入口での試料濃縮です。カラム入口での試料濃縮が不充分な場合、試料は導入されているにも関わらず、感度が得られない場合があります。

上図は同条件でスプリット注入法(スプリット比1:15)とスプリットレス注入法で同じ試料を分析したクロマトグラムです。スプリットレス注入ではスプリット注入の15倍近く試料が導入されているにも関わらず、濃縮効果が得られないため感度は低くなっています。
カラム入口での試料の濃縮には、ソルベント効果、リテンションギャップ効果、コールドトラップ効果を利用します。

ソルベント効果について

ソルベント効果は、カラム温度を溶媒の沸点以下に保った状態で、カラム内に大量の溶媒が入るときに起こります。
注入口で気化した溶媒はカラム内で液体に戻り、フラッデッドゾーンを作ります。分析対象成分はフラッデッドゾーンの中に拡散します(Step1,2)。溶媒はカラム入口側から徐々に気化します。溶媒の気化後、カラム表面に残された分析種のうち、比較的揮発性の高い成分は気化し、移動相により運ばれ、カラム表面に残存する溶媒に捕集され、濃縮されます(溶媒の移動速度は、移動相に比べて極めて遅いため)(Step3)。
中・高沸点成分は気化せず、フラッデッドゾーンの長さに広がり、カラム内に残り、昇温することでカラム内を運ばれます。

ソルベント効果は、溶媒の沸点よりもカラム温度を低くしないと充分に働きません。下図のクロマトグラムは、希釈を窒素ガス、iso-ペンタン、n-ヘキサンに変えてカラム温度を40℃でスプリット注入したものです。

ソルベント効果が作用しているため、n-ヘキサンで希釈したものだけピーク幅が狭くなります。このように、通常、カラム温度は、使用した溶媒の沸点より10~40ºC程度低く設定する必要があります。また、低沸点成分は濃縮しないため、ピークは広がります。

リテンションギャップ効果について

1µL以上の注入や、溶媒が液相にうまくなじまない場合、フラッデッドゾーンはカラム入口で広がってしまいます。このような場合、分析カラムの前に薄い液相を塗ったカラム、もしくは液相を塗っていないキャピラリーチューブを接続します。このカラムをリテンションギャップといいます。
リテンションギャップ内で広がった中・高沸点成分は、昇温とともに移動を開始し、分析カラムの先端に濃縮されます。
また、リテンションギャップを接続することで、大きく二つの効果があります。
ひとつは、液相と溶媒のなじみを良くすることにより、フラッデッドゾーンの広がりを抑えます。
もうひとつは、リテンションギャップ内での保持が弱く脱離が早いため、分析対象成分は分析カラムまで早く到達し、濃縮効率が向上します。

コールドトラップ効果について

分析対象成分の沸点に対して、試料注入時のカラム温度が低くなるほど、カラム内での移動速度が低下します。この減少を利用してカラム先端に試料を濃縮することをコールドトラップ効果といいます。試料が気化した状態でカラム内に入り、カラム温度が分析対象成分の沸点より100℃以上低いときに起こります。カラム内に入った試料はカラム先端で濃縮されます。

希釈溶媒は、前述の溶媒効果の影響がないようにiso-ペンタンを使用しています。
a)のスプリット注入の場合に比べて、b)のスプリットレス注入では明らかにピーク幅が広がっています。しかし、注入時のカラム温度を下げたc)では、スプリットレス注入にも関わらずシャープなピークが得られています。これは、カラム温度を下げたことによりコールドトラップ効果が作用しているためです。

 

分析事例やノウハウを多数ご用意しています