技術情報

ガスクロマトグラフィー(GC)の基礎

Ⅱ章-5 キャピラリーカラムの使用上の注意

Ⅱ章-5-1 カラムの寿命を長くするために

カラムを劣化させる主な原因は、温度、酸素、試料です。特に高温時の酸素の混入は、カラムに致命的なダメージを与えます。
カラムの寿命を長くするためには、下記のことに注意が必要です。

温度

必要以上に高温で使用しないでください。
高温で使用しますと、軟化劣化が起こり環状シロキサンを形成します。
その環状シロキサンがカラムから溶出し、カラムのブリードとなります。

軟化劣化モデルの画像

酸素

なるべく混入しないようにしてください。
酸素がカラム内にある状態でカラム温度を高温にしますと硬化劣化が起こります。
このポリマーは非常に硬く、最終的には液相の役割を果たさなくなってしまいます。

硬化劣化モデルの画像

試料

分析カラムに不揮発性物質が残ってしまうと、カラムの劣化につながります。
前処理で夾雑物を除去したり、プレカラムを使用して試料中の不揮発性物質がカラムに入らないようにしてください。
その他、強酸・強アルカリはカラムの液相を破壊します。

カラム先端の不揮発成分の画像

カラム先端の不揮発成分

プレカラム接続例の画像

プレカラム接続例

Ⅱ章-5-2 カラムの再生

カラムの性能が劣化してきたときには、コンディショニング、汚染部の除去、溶媒洗浄を行います。
これによりカラムを再生できる場合があります。

コンディショニング

カラムの検出器側を注入口に取り付け、カラムの最高使用温度以下で長時間コンディショニングしてください。

汚染部の除去

カラムの入口側を50cm~1m程度切断し、不揮発性物質などによる汚染部を除去します。
カラムの切断にセラミックチューブカッターやキャピラリーファインカッターを使用すると簡単に切断することができます。

サンプル汚染により劣化したカラムのクロマトグラム
下矢印の画像
ガードカラム先端50 cm カット後のクロマトグラム

汚染されたガードカラム部分を切り落とすことにより、ピーク形状やベースライン上昇が改善しています。

ただし、カラムをカットしすぎると…
しかし、キャピラリーカラムをカットしながら使用すると徐々に長さが短くなり、十分な分離度が得られなくなる場合があります。

通常のカラム(ガードカラムなし)のクロマトグラム

そのため、不活性処チューブをインナーシールコネクター等で分析カラムに接続する方法があります。非常に有効な方法ですが、接続方法が少々難しいのが難点です。
現在では、プレカラムと分析カラムが一体となった「ガードカラム一体型カラム」が販売されているので、こちらの使用をお薦めします。

InertCap ProGuard(ガードカラム10 m)のクロマトグラム

溶媒洗浄

WCOTタイプの架橋型カラムの場合は溶媒による洗浄が可能です。
ただし、液相にダメージを与えないように、ゆっくり時間をかけて洗浄してください。洗浄後は不活性ガスを流して、充分乾燥してください。
フェニル基やシアノプロピル基など、メチル基以外の官能基がある場合は、洗浄によって割合が変わってしまうことがありますので注意が必要です。

キャピラリーカラム洗浄キット(例)の画像

キャピラリーカラム洗浄キット(例)

Ⅱ章-5-3 キャピラリーカラムの取扱方法(WCOTカラム)

カラムの再生

カラムの性能が劣化してきたときには、汚染部の除去、コンディショニングなどを行います。これによりカラムを再生できる場合があります。
汚染部の除去 カラムの入口側を50 cm~1 m程度切断し、不揮発性物質などによる汚染部を除去します。
カラムの切断にキャピラリーファインカッターやセラミックチューブカッターを使用すると簡単に切断することができます。

コンディショニング
カラムの検出器側を注入口に取り付け、カラムの最高使用温度以下で長時間コンディショニングしてください。

カラム再生時におけるコンディショニングの注意点

・キャリヤーガスが流れていることを確認してください。キャリヤーガス内に水分や酸素が存在する状態でカラムを加熱するとカラムの劣化に繋がります。必要に応じてガス精製管(水分、酸素、有機物除去用)を使用してください。

・検出器の汚染を防ぐために、カラムの検出器側のみを外してコンディショニングすることをお薦めします。汚れが多いことが予想される場合は、検出器側に付いていたカラムを注入口に接続し、逆方向にガスを流しながらカラムをコンディショニングします。

カラム再生時におけるコンディショニングの注意点の画像

・キャリヤーガスを流した状態で30mカラムの場合、室温下で20分以上パージします。パージが不充分な状態で昇温すると、性能低下の原因となるため、注意してください。

・室温から5~10℃/minの速度で昇温し、分析で使用する最高温度より10℃高い温度(ただし、カラム最高使用温度(Iso.Max.Temp.)を越える場合は、カラム最高使用温度(Iso.Max.Temp.))で、1~2時間程度コンディショニングしてください。


カラムの検出器側を外してコンディショニングする場合の手順

-シリコン系液相の場合(InertCap 1、InertCap 5など)-
室温でキャリヤーガスを20分以上流します。40℃から10℃/minでコンディショニング最高温度まで上げ、2時間ホールドします。
コンディショニング完了後、検出器側にカラムを接続してください。
分析初期温度に戻した直後の10分間はベースラインが緩やかに下がりますので、安定するまで待ちます。
ベースラインの安定後、分析を開始してください。

シリコン系液相の場合(InertCap 1、InertCap 5など)の画像

-WAX系液相の場合(InertCap Pure-WAXなど) -
室温でキャリヤーガスを20分以上流します。40℃から5℃/minで100℃まで上げ、30分間ホールドして、水分の追い出しを行なった後、5℃/minでコンディショニング最高温度まで上げ、2時間ホールドします。
コンディショニング完了後、検出器側にカラムを接続してください。
分析初期温度に戻した直後の10分間はベースラインが緩やかに下がりますので、安定するまで待ちます。ベースラインの安定後、分析を開始してください。

WAX系液相の場合(InertCap Pure-WAXなど)の画像

カラムの保管

キャリアーガスで充分にカラムをパージした後に、フューズドシリカエンドキャップなどでカラム両端をシールします。カラムは梱包箱に入れて、直射日光の当たらない場所で保管してください。

Ⅱ章-5-4 キャピラリーカラムの取扱方法(PLOTカラム)

カラムの再生

TC-Molsieve 5A及びTC-BOND Alumina系カラムは、水分が吸着すると極性が変化し、分析結果に影響を及ぼします。その際にはカラム内から水分を除去し、カラムを再生して使用することができます。

カラム再生時におけるコンディショニングの注意点

・キャリヤーガスが流れていることを確認してください。キャリヤーガス内に水分や酸素が存在する状態でカラムを加熱するとカラムの劣化に繋がります。必要に応じてガス精製管(水分、酸素、有機物除去用)を使用してください。

・カラムの検出器側のみを外してコンディショニングしてください。

・キャリヤーガスを流した状態で30mカラムの場合、室温下で20分以上パージします。パージが不充分な状態で昇温すると、性能低下の原因となるため、注意してください。

TC-Molsieve 5Aカラムの場合

室温から5℃/minの速度で昇温し、最高使用温度(300℃)で3時間ホールドして水分除去を行います。
ただし、4時間以上のコンディショニングを行わないでください。性能低下やカラム破損の原因となります。

TC-BOND Alumina系カラムの場合

室温から5℃/minの速度で昇温し、最高使用温度(200℃)で2~4時間ホールドして水分除去を行います。
ただし、4時間以上のコンディショニングを行わないでください。性能低下やカラム破損の原因となります。

TC-BOND Q 、TC-BOND U 及び及びTC-BOND S カラムの場合

室温から5℃/minの速度で昇温し、カラムの最高使用温度で1時間ホールドしてコンディショニングを行ないます。ただし4時間以上のコンディショニングを行わないでください。性能低下やカラム破損の原因となります。

検出器の保護(パーティクルトラップ)

TC-PLOTシリーズカラムの内面には、1μmより小さい粒子の層がコーティングされています。
カラムの使用頻度や外的衝撃などにより粒子(パーティクル)が剥がれ落ちることがあり、検出器などに侵入してスパイクノイズとして分析に影響を及ぼす場合があります。
特に質量分析計などで検出を行う場合、検出器側が陰圧になることで粒子剥離が発生し、検出器へ侵入してしまう可能性があります。

パーティクルによるスパイクノイズの画像

これらの影響を低減させ、検出器汚染を防止するためにも、パーティクルトラップのご使用をお薦めします。
パーティクルトラップにはインナーシールコネクターが付属しており、簡単ににカラムと接続できます。

分析事例やノウハウを多数ご用意しています